向けた刃の先に
ぺる氏の審神者さん闇堕ち話。結構物騒。いろいろ注意。
ある本丸に歴史修正主義者が現れた、と連絡が届いた。
その本丸に、奈雲は覚えがあった。
「…おいおい、こりゃ襲撃とかじゃねーぞ」
件の本丸に足を踏み入れた同田貫が呟いた。襲撃されたならば見るも無残なほどに荒れているはずだ。
しかし、荒らされた形跡は無く恐ろしいほど静かだった。
「…空気が重い、どろどろして…気持ち悪い」
いつもへらへらとしている奈雲が顔を顰めて吐き捨てた。そんな奈雲の様子でこれはただ事ではないのだと再認識した同田貫が柄に手をかける。
「…ここでうだうだやっててもしょうがねえ、進むぞ」
こくりと奈雲が頷くのを確認すると同田貫は柄に手をかけたまま歩き出し、奈雲もそれに続く。
「…これは、ただの予感だもん、はずれるもん、はずれてよね…」
ぎゅう、と手を握り締め、奈雲は最悪の展開を振り払うように呟いた。
その時だった。
「、たぬ、止まって!」
「っ!?」
突然奈雲が叫び、同田貫の歩みが止まる。そしてその足のすぐ近くに何かが突き刺さった。
「っぶね…、助かった、主」
「…」
「…主?」
礼を言った同田貫の声が聞こえていないとでもいう風に奈雲はふらりと前に出、震える手で突き刺さったものを抜いた。
ぎらりと鈍く輝く刃が固い表情の奈雲を映す。それを見た同田貫は驚いたような顔をした。
「…短刀じゃねーか」
「…しかも、粟田口の短刀だよ」
ぎり、と歯を噛みしめた奈雲は唸るような声をあげ、だん、と床を殴った。
「…在るべき道を逸れた気分はどう?」
「最高だよ」
突然背後に気配と殺気が現れる。それを感じ取った同田貫は素早く後ろを振り返ると同時に抜刀する。ギンッと金属同士が擦れる音が響いた。
「…思い入れしすぎると身を滅ぼすって言ったよね、わたし」
「あんたに言われたくないね、同田貫狂い」
奈雲の金の目が細められ、地を這うような声がこぼれる。それに嘲る色をのせた言葉が返る。言葉を返した人物は奈雲がよく知る人物であった。
「まさか、本丸まるごとあちら側っていう創作物もびっくりな展開が本当になっちゃったなんてね、パーカーちゃん」
おかしなあだ名で呼ばれた人物はにぃ、と笑うと右手をゆっくりとあげる。
「わかってるなら話は早いね、きっとこの次に私が言うこともわかってるんだろうねぇ」
「…」
「死ね」
太刀と太刀がぶつかり合う。かなりの衝撃であったはずなのに何の損傷もない同田貫にさすが実戦刀、と心の中で奈雲は賞賛した。
「ぶっ殺せ!」
「お願いだから折れないでよ!」
奈雲と彼女の視線が交わう。狂気に満ちた目に嫌悪を感じ、終わらせなければ、と決意を固めた。
躊躇はしない。彼女を救う。
それが彼女を殺めることとなっても。